エピローグ〜新たなる扉〜
建物の外では桜の花が満開だ。 ビルの中にまで春の匂いが漂ってきている。 様々な花の匂い。 若葉が萌える匂い。 柔らかな、しかし、力強い春の香り達。
福岡空港国際線ロビー。 おいらは気怠げにソファーの横に寝ころんでいる。 すぐ側で沙世子は、わからんちんの若い外務省職員を相手に孤軍奮闘している。 今度のMISSIONは海外。 どこかの国の大統領が勝手に戦争おっぱじめたおかげで、おいら達が動き難いことこの上ない。 そろそろおいらの堪忍袋もほころびつつある。 立ち上がって催促しようとすると、周り中から人がぞろぞろ集まってきた。 空港職員。 各航空会社で働くグランドクルー。 客室乗務員やパイロット達。 そして、旅行者や出迎えの人々。 「だから・・政情が不安定な国に行かせるわけにはいかないんです。国民の安全を図るのが外務省の立場なんですから、判って下さいよ!せめて安全だという情報が入って来るまで待って下さい。」 「だけど、助けを求めている人達が現実にいるんです。私達のネットワークに助けて下さいというメッセージが・・」 「あのぉ。ちょっとよろしいですか?」 年かさの、にこにこした表情を浮かべた紳士が沙世子と外務省担当者の間に割ってはいる。 「今のお話の国って中東のあの国ですよね?私達の会社や商売上の取引仲間でもその情報は入ってきています。なんでも戦争後、大変なことになっているとか・・。世界中からボランティアの方々が駆けつけているんでしょう?なんでお嬢さんは一人で?」 「一人じゃありません。犬と。災害救助犬と一緒です。パリで世界中の仲間と合流します。早く搭乗手続きしないと・・」 焦る沙世子を手で制しながら 「あなたは・・誰のために助けに赴こうとしているのですか?危険が待ち受けているだけなんじゃありませんか・・。折角人助けしても政治的なプロバダガンバに利用されるのがオチじゃありませんか?なんでそんなところにわざわざ『今』行くんです?」 さらりと茶色いストレートヘアを揺らすと紳士の方を向き、沙世子のアーモンドアイは輝きを増した。 「これを見て下さい。」 バッグから取り出す小さな帽子。 「これは、岬市の小さな保育所に落ちていました。傍らの潰れた建物には三人の小さな子供達が埋もれてました。」 「私は・・あの子達を助けることは出来ませんでした。」 「でも・・四人目の・・男の子は・・助けることが・・助けることが出来たんです!」 「判ってもらえなくても構いません。私は・・私は・・」 「もう、いいよ・・」 諦めたようにポツリと外務省の担当者がつぶやいた。 「俺だって、あの地震で親父亡くしたんだ・・。仕事だから。義務だから。公務員だから。今まで反対してたんだけどさ。」 必要書類にサインしようとする担当者を制して、紳士が素早くペンを操る。 「あんたは自分の責務を果たした。責任というのは地位が高い者が取るモンだ。」 身分証明書を見せながら 「外務省中東アフリカ局中東第二課の松信だ。彼女は今から特別公使として私と現地に同行する。判ったね。」 振り向くと紳士は何事もなかったように 「さぁ、行きましょうか?」 と沙世子を促した。 怪訝そうな彼女に 「実は伊那先生からあなたのこと、頼まれていたんですよ。思った以上の素晴らしいお嬢さんだ。」 一斉に拍手が沸き起こる。 混雑するロビーの人混みの海が、割れるように二つに裂かれた。 空港職員達が一丸となって盾になってくれている。 「走れますか?」 「はい!」 おいら達は一目散に出発ゲートをくぐり抜ける。 くるりと振り向き、ぺこりと頭を下げる彼女。 拍手が一段と大きくなる。 「こちらです。」 機内にはいると、すかさずフライトアテンダントが声を掛け、最前部のファーストクラスに誘導する。 「あの、私、エコノミークラスなんですけど・・」 小さな声で沙世子がつぶやくが、委細構わず一番前の席に連れて行かれる。 「機長よりハイジャックが怖いので、お客様方に守って頂きたいとのことです。」 悪戯っぽい声の説明とウィンクで、やっとおいら達は安心して席に落ち着くことができた。
数分後。
黄砂で曇る東シナ海向けて、エールフランス航空のエアバスA340は優雅な羽を広げ飛び立っていった。 新たなる扉を開くために・・・。 (あ〜るの考察2〜誰のために〜 完)
世界中に散らばる災害救助犬達とそのハンドラーの方々に・・尊敬と感謝と祈りを込めて・・
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この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
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