9.出動

 

嘱託警察犬の任期は一年。

警察から出動要請があれば、訓練士の到着を待ち、事件現場へ急行。捜査に加わる。

おいらは二歳から警察候補犬として経験を積んで、昨年嘱託警察犬に任命された。

間もなく、警察車両が続々と公園近辺に集結しはじめた。

近くの家でも飼い犬達が吠えはじめる。

緊急車両のサイレン音は犬の聴覚をいたく刺激するのだ。

我が家の前にも一台のワゴン車が止まった。

庭の扉が開くと訓練士の享卦さんが入ってくる。

「いや〜奥さん。夜分に申し訳ありません。とにかくお宅のあ〜るが一番現場に近くて。今夜はどういう訳か直轄警察犬が出払ってまして。丁度ウチの犬舎に訓練に来てた二頭と一緒に野犬退治ですわ。」

「野犬って。誰か襲われたんですか?」

ご主人の声。

「いやぁ。それが連絡内容があやふやで要領を得ないんですが、どうも女の子を襲おうとした若いモンらが襲われたようです。」

「女の子に怪我は?」

「幸い、無傷で病院に運ばれたと聞いてます。」

ほっ。とおいら胸をなで下ろす。

「さて、あ〜る。行こうか」

と享卦さん。

手慣れた動作で引き綱を掛けてワゴンに誘導する。

「ありゃ、お前少し濡れてるな。そういやウチの二頭もさっき犬舎から出したとき濡れてたが。」

ギクッ。

「さあ、出動、出動」

知ってか知らずか、享卦さん。

そのまま車に乗り込む。

現場までは車ですぐだ。

下りたおいらを迎えた二頭は案の定、龍とataruだ。

「マジ?」

とおいら。

「マジ・・」

と二頭。

あきれたように三頭額を寄せて囁き合う。

さてどうするか・・・

 

「しかし、あんたらなんでおいらより早く現着出来るんだよ・・・?」

「ああ、赤い服の女の子追いかけてったら犬舎の裏に出た。以外に近いんだな、ここと犬舎」

ataruがこともなげに言う。

んなあほなことあるかぁ?

 

「さてっと。どないしましょ?ミステリー劇場の脚本ではこの場合、知らんぷりして捜査に当たり、後からバレるパターンが一般的ですけど?」

龍がしれっと言う。

「龍さん。やっぱここはどこかまで誘導して見失うのが常道でしょ?」

ataruが口を挟む。

なんで?

「第一に俺らは犯人がはたして犬なのかを知らない。残留品から匂いを嗅いでも、それがどこの匂いか判断するのは俺達次第だ。第二に、どうせ野犬狩りといっても、明日になれば管轄は保健所に回される。今夜は事件の異常さに鑑みて警察としても動いたことの実績作りが主だ。それは直轄警察犬が出てこないことでもわかる。そこで、三頭で口裏を合わせてどこかに誘導して見失うのが一番説得力がある。」

「じゃ、中学校。赤い服の女の子もそこに住んでるし。」

とおいら。

「よっしゃ。それでいこ。だめやったら、そん時はそん時や。」

 

被害者のシャツの切れ端を嗅がせられ、捜査に当たる。

ところが、

「あれっ?」

龍がへんな顔をする。

「おい、二人ともこの匂い嗅いでみい。こりゃひょっとすると、どえらい事件かも知れへんど!」

おいらとataru。

怪訝そうに龍にあてがわれていたシャツの匂いを嗅ぐ。

と、ataruが鼻をしかめながら叫ぶ。

「覚醒剤?!」

おいらのさっきの感覚は正しかったのだ。

 

その後野犬狩りなど雲の彼方に飛んで行き、おいらたちはシャツの持ち主の匂いの足跡を必死で追った。

 

享卦さんもおいら達の目の色が変わったのがわかったらしく、傍らの知り合いのおまわりさんに、

「おぅ、トモちゃん。すぐ県警の鑑識回してもらってくれや。こいつら様子がおかしい!こりゃもしかするとなんか別の匂い追ってるぞ!」

と怒鳴ってくれてる。

 

おいら達は何度か匂いを見失いながらも、2時間ほどあたりを捜索した結果、公園のゴミ入れの中から吸引具が、駅のコインロッカーから注射器や吸引具と共に覚醒剤の包みが見つかった。

 

翌日の新聞には誇らしげに「警察犬お手柄!」の文字が踊っていたのは言うまでもない。

 

btn04_f06.gifbtn04_f04.gifbtn04_f05.gif


この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
著作権はこれら作品の作者にあります。無断転載・複製・再配布などは行わないでください。

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送