10.紫陽花

 

眠い!!

 

今朝までataruと龍と3頭で犬舎に待機してたので猛烈に眠い。

それでも朝の運動と食事を犬舎で済ませ、やっと享卦さんの運転するワゴンで帰宅したのが朝の9時過ぎ。

とても動き回る気もせず、小屋でグタっと惰眠を貪る。

その日の夕刻。

「あ〜る・・・」

沙世子の声が気遣わしげに小屋の外から聞こえた。

もそもそっと這い出ると、少しやつれた感じの彼女が微笑んでいる。

「少し、歩かない?」

ご主人に話をしていたらしく、引き綱を手に持っている。

ぶらぶらっと昨日の公園に行ってみる。

「ここで倒れちゃったんだ・・私。」

その場所は警察の現場検証も終わったらしく、普段通りの静けさだった。

おいら達が残した血の匂いも今は微かに漂うのみ。

ベンチに腰掛けて沙世子はおいらを見つめると、特徴あるアーモンドアイを少しすぼめて尋ねた。

「私、なにをやったのかな?あ〜る」

「あの時の記憶・・・なんか、あやふやで・・・耕君をかばって、もうだめだっと思ったときに、赤い服の女の子がトコトコやって来て『目を瞑って!助けてって心で念じて!』って叫んだの。夢中で念じてたら気が遠くなっていって。最後におまえが飛び込んで来てくれたのだけは覚えてるんだけど。気がついたら病院のベッドだったわ。何が起こったかは今日の夕刊でやっと判った。さっき警察の人が来て話を聞いたけど、なんか要領を得ないのよ。私は、囲まれて襲われそうなときに犬に襲われたって事だけ話したんだけど。だって赤い服の女の子の話なんてだれも信じてくれないもん。」

「あ〜る。助けてくれて・・ありがとう。お前が喋れればもっと詳しい話聞かせてもらえるんだけどな。」

おいらだって、あの時起こった事なんて正確に伝えること出来やしないよ。

アイコンタクトでそう言ってみるが、無論そこまで話が通じる事などない。

 

一筋の涙が沙世子の頬を伝う。

 

「私、私怖いの。こんな力持ちたくない!周りに、おばあちゃんやあなたのご主人や潮田さんの家族に迷惑や心配掛けてばっかり。小夜子の鍵もそう。なんでみんな私は特別って目で見るの?小夜子の亡霊みたいに。人を傷つけて、なんでみんな平気でいられるの?私は人を傷つけたくないのに、なんで結果はこうなるの?私が悪いの?私・・どうしたらいいの。私がいなかったことにすれば、全て解決するの?」

 

いつの間にか雨がしのつき始めた。ベンチの傍らで紫陽花が彼女の涙を吸い取るように鮮やかな赤紫色の花をつけている。

 

沙世子は、小夜子になることを迷っている・・・?

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この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
著作権はこれら作品の作者にあります。無断転載・複製・再配布などは行わないでください。

 

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