16.せぷてんばー

 

先日までの暑さが嘘のように朝夕涼しくなってきた。

日々高くなっていく空とは逆においらの気持ちはだんだんと沈んでゆく。

理由は、沙世子。

最近の沙世子はおいらと再会した頃とは別人のように明るく元気になった。

玲との小さな冒険やら小旅行やら経験してからは特に。

以前おいらが感じた心の殻が、今では気づかないほどにまで薄く感じられる。

それは文句なくうれしい。

でも、でもね。

ちょっと最近おいらに気をかけてくれないのが寂しい。

文化祭の合唱の練習やら、クラブ活動やらで毎日帰りも遅いし・・・

さっきも久しぶりに会ったのに、

「あ〜るぅ。元気してた?」

って声かけてくれただけ。

たまには散歩に連れ出しておくれよぉ。

 

そんな日曜日、やっとお呼びが掛かった。

「あ〜る。いるぅ?」

はいはい、いますよ。

尻尾クルクル・・

「加藤君のところまで遊びに行かない?」

ええ、ええ、加藤だろうが後藤だろうが・・・なに?またあのイヤな匂いのするところに行くのぉ!?

「加藤君退院して自宅療養中らしいから、もう病院に忍び込まなくて大丈夫よ。」

ホッ。でもなんで今頃行くのさ?

夏休みの終わりとかで行ってくりゃよかっただろうに・・・。

「んん〜。時期を誤ったっていうか。潮田さんと一緒に行きたかったんで今までずるずるとね。」

なんで行くの?

「まぁ、けじめ、かな?私ほら、前に彼に対してひどいことしちゃったじゃない?潮田さんとも話したんだけど、やっぱ二人で一緒に加藤君に謝りたいねって話してたの。丁度今日の午後は二人とも都合がいいし、来週の文化祭で小夜子の芝居あるからその時には彼にも出て欲しいって言おうと思って。」

ほ〜。で、なんでおいらも?

「いやならいいのよ。潮田さんと二人で・・・」

いえいえ、イヤだなんて!さ、ご主人に散歩のお誘いっと・・・。

 

そんなこんなで加藤の家を訪ねる。

校門の所で玲が待っていた。

「あ〜る久しぶりだったね。元気してた?」

玲、相変わらずの明るさ。

今日はジーンズとトレーナーのラフな格好。

沙世子はサマーセーターとミニのジャンバースカート。

「どうする?なんかお見舞い買ってく?」

「そう言うだろうと思ってクッキー作ってきた。」

「ナイス!さすが津村さん」

おいらの目の前でいい匂いが揺れる・・・。

ちょっと辛いゾ。

この状況は・・・

 

校門から歩いて4,5分で加藤の自宅だ。

こっちも食堂のいい匂いが漂う。

日曜の昼下がりとあって客は誰もいない。

「こんにちは〜!」

玲、奥に声をかける。

「あら!いらっしゃい。え〜っと津村さんと潮田さんね。」

おばさん、客商売だけあって物覚えがいい。

「カトっじゃない。彰彦君います?」

「彰彦のお見舞いに来てくれたの?何度もありがとうね。いるわよ。彰彦!お友達よ!津村さんと潮田さん。」

おいらもいるよ〜!

「あがってお茶でも飲んでいってね。」

「なんだよ。おまえらまた来たのかよ。」

迷惑そうな声を出しながら彰彦、二階から下りてきた。

前に会ったときより顔色がいい。

でもやはり少し疲れた感じとイライラした苛立ちは消えていない。

「これ!なによ。その言い方は!」

母親にたしなめられ、彰彦ふてくされる。

「ちょっと出ようか?」

 

学校の校庭の片隅。

例の碑の前。

三人と一匹で何となくぶらついていたら、ついこの碑の前に来てしまった。

「元気そうじゃない?カト。」

玲が気軽に声をかける。

「そう見える?これでもまだ走ったり興奮したりすると苦しいんだけど・・」

「自宅療養になったって聞いたから。一度二人で行こうって。来週文化祭だし。その前に一言私達から伝えたいことがあって。」

沙世子気を使いながら話しだす。

「な、なんだよ。」

彰彦、ちょっとたじろぎ気味に二人をにらむ。

でも、心底憎んでいたり、怖がっていたりしているわけではないことが匂いからも判るので、おいらも気配を伺うことにした。

「ごめんなさい」

二人そろって頭を下げる。

「小夜子の件で怖い思いさせて」

玲が代表して口を開き沙世子が引き継ぐ。

「もう知ってると思うけど、私と潮田さんが今年の小夜子なの。それでね。来週の文化祭で上演される小夜子のお芝居の時、加藤君に必ず学校に出てきて欲しいの。」

「カトが喘息で入院してる間中、津村さん私の弟に頼んで花届けてたの知ってるでしょ。他の人には黙ってて、許して欲しいなんて虫のいい話かもしれないけど。お願い!カト。協力して。私と津村さんの今年の小夜子」

玲も沙世子も必死の面持ち。

「なんだよ。ずいぶんと都合のいい話じゃないかよ!僕がこの4ヶ月の間どんなに辛い思いしたのか知りもしないくせに!」

突然の彰彦の強い口調に二人とも首をすくめ言葉もない。

自分達がどんなことをしでかしたか、身に染みている様子。

「中学二年の大切な時間を病院のベッドで過ごしたんだぞ。毎日毎日いつ発作が来るか不安で、怖くて。喘息なんて薬ですぐよくなるモンじゃないんだ。前に津村に話したように僕を小夜子の理由にするな!」

「そうじゃないの!加藤君そうじゃない。私あの時そう言われたからこそ、今こうやって潮田さんと小夜子の芝居の脚本を作れた。だから、私と潮田さんが作った今年の小夜子。参加して欲しくてここに来たのよ。そのことだけは判って欲しいの。」

「おまえたちはいつもそうだよ。」

半分あきれて彰彦つぶやく。

「人の気持ち考えたことあんのかよ。」

「だからこそここに来たんじゃない!」

玲思わず叫ぶ。

「カトの気持ち判るけど、いつまでも小夜子のせいにばかりしてたら堂々巡りばっかじゃない。カトが小夜子信じないのは自由だけど、だったら自分でそれを吹き飛ばすくらいの気持ちの強さ持ったらいいじゃない?小夜子を理由に自分の殻に閉じこもっているのはカト。あんたじゃないの?」

ビクリと体をふるわせて玲をにらみつける彰彦。

どうやら図星のようだ。

「小夜子なんていない!」

「いたとしても、僕には必要ない。僕は・・僕は・・小夜子のせいになんかしていない!僕が弱いだけなんだ。それを小夜子のせいにするなんてずるいこと・・・そんなこと許せない!」

 

「帰りましょ。潮田さん。加藤君。今までのこと本当にごめんなさい。もしも気が向いたら来週の文化祭参加してね。」

 

沙世子、たたずんでいる彰彦に背を向ける。

 

「津村さん、いいの?カトあのままにしてて?」

後ろから追いついた玲。

おいらもそう思い沙世子を見上げる。

「何となく。何となく判るの。加藤君の気持ち。もう少しで自分の殻を破れるんだけど、自分の思いのままにならないもどかしさ。きっと加藤君判ってくれてると思う。」

「そうかなぁ、あいつ意外に頑固だからなぁ」

玲今ひとつ納得出来ていない様子。

しかし、沙世子はすゞやかな笑顔をひろげてつぶやいた。

「来週は文化祭か・・」

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この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
著作権はこれら作品の作者にあります。無断転載・複製・再配布などは行わないでください。

 

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