21.それぞれの扉

 

別れは突然やってくる。

 

12月

クリスマス前の慌ただしい雰囲気の中、沙世子は旅立ちを迎えた。

ご主人に挨拶に寄って、おいらの犬小屋の前に佇む。

「あ〜る。起きてるんでしょ?おはなししよ。」

すっかり自分の殻から抜け出し、今まで見たことのない晴れやかな表情で話す沙世子。

でも、やはり、少し悲しそうだ。

「両親の所へ行くわ。私。ひとまず両親と暮らしてみる。」

拗ねて犬小屋から出ようとしないおいら。

「朝の散歩。付き合えなくなるね。ごめんね。」

喉を鳴らすとおいら小屋から出る。

なんで謝るんだよ!

いいよそんなこと。

両親と一緒に暮らしなよ。

そんなことをごちゃごちゃ言いながらおいら沙世子を舐めまくる。

涙の味がした。

 

「あ〜る。一つ聞いていい?聞きそびれてたんだけど、あの火事の時に助けてくれたのってひょっとしてあ〜る?」

「バ〜ウ?」

「そうよねぇ。あの炎の中おまえやアルフォンスの声が聞こえたような気がしたんだけど・・」

「・・その他にもね。なにかとても暖かいものを感じてたの。あの炎の中を通り抜ける一瞬にね。玲、潮田さんもそう言ってた。」

「私ね。また帰ってくるから。この街に。この街の私の物語はずっとずっと続いてゆくから。」

名残惜しそうに立ち上がる沙世子。

「忘れないよ。あ〜る。おまえのこと。ありがとう。さよならは言わないからね。またね。あ〜る。」

 

そして沙世子は・・旅立っていった。

 

年が明けて・・春まだ浅い頃

 

昼寝中ふと目を上げると、そこに赤い服の少女がいた。

 

「お別れに来たの。」

「どこか行くのか?」

「・・・」

おいらの問いには答えない。

「一つだけ教えてくれないか?あの火事の時、頭の中に響いたあの声はやはりあんたかい?」

少女は謎めいた笑顔と共に一言だけ呟いて消えていった。

「あ・り・が・と・う」 

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この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
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