3.始業式前日

 

夕方の散歩に行こうかというとき、丁度家の前でバッタリ彼女と会った。

ご主人とひとしきりおしゃべりした後、ふと思いついたように彼女から

「あ〜る。買い物付き合ってぇ」

と誘われた。

別においらはうれしいけど・・と上目遣いにご主人を見つめると、「あら、良かったわね。あ〜る。美女からデートのお誘いよ」

と二つ返事。

この数日、彼女は散歩に同行したり犬小屋に遊びに来たりしておいらの記憶を完全に呼び覚ましてくれた。

今では昔からの幼なじみのように遊べる。

引き綱をご主人から受け取り彼女とデート。いや、散歩に出かける。

「中学校までの通学路の確認と、人が居なかったら校舎の中も覗いてみて(おぃおぃっとおいら・・)公園通って、駅前でアロマテラピー用のロウソクとお花買って帰りましょ。」

 

へぇへぇ・・わかりやした・・・。

 

国道に出ると車の流れが激しく大型トラックもひっきりなしに通る。

おいらはこの道通るの苦手だ。

なんか車のために出来た道みたいで犬が通ること考えて作ってない。

おまけに鼻と耳を刺激する匂いと騒音がおびただしい。

「おまえにはやっぱこの道あぶないな。こっち行ってみよ。あ〜る。」

角を曲がって狭い住宅の間の私道をすり抜ける。

狭い石段をトコトコ登ると学校の裏門のそばに出た。

「ふ〜ん。こんな道もあるのかぁ・・」

独り言を呟きながら彼女は裏門から中に入っていこうとする。

裏門は、鎖が掛かっているだけで鉄柵の門はない。

「やめなよ〜」

おいらの止めるのも聞かず、彼女、さっさと靴箱のある玄関口のところへ歩を進める。

「ちょっとここで待っててね。」

「なんだぁい・・」

とおいら。

靴箱のある玄関口の傘立てに引き綱を結びつけると、彼女は校舎の中に消えていった。

それから数分後、彼女が戻ってきてくれてほっとした。

なにせこんな図体の犬が玄関口にいては見回りの警備員さんも驚くはずだ。

「ごめんね。あ〜る。」

綱をほどくとおいら達は校庭を通り正門の方に向かって走っていった。

正門は春休み中で閉まっているかと思っていたけど、だれか教職員がこの時間まで出勤しているのか鉄門に鍵は掛かっていない。

網柵に沿って植わっている満開の桜の木々の下の小さな碑に近づいた瞬間。

 

おいらの警戒レベルが一気に高まった。

首の後ろの毛が逆立つ。

咽の奥から唸りが湧き出る。

匂いや音とは違う。

おいら達「人間にあらざるもの」が感じる第六感ってものが、そこに何かいることを知らせてくれているのだ。

「あ〜る?」

その時、彼女の表情にも変化が現れた。

14歳の少女の顔から瞬時に巫女の持つ能面のような表情に変わった。

長い髪をが、さっと逆立ったように揺れる。

風なのか?

それとも彼女にも「それ」が見えるのか?

おいらと彼女の「それ」との出会いは満開の桜の樹の下で日暮れ時というなんともこれ以上ないタイミングで実現してしまった。

 

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この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
著作権はこれら作品の作者にあります。無断転載・複製・再配布などは行わないでください。

 

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