4.人にあらざるもの
「そこでなにをしているの?」 優しく彼女が尋ねる。 おいらはいつでも飛び掛かれるように、そして彼女を守るために斜め前の位置に移動する。 獲物をねらうようにソロソロと動く・・。 けして良くないおいらの色盲の目にも「それ」・・赤い服の幼女の存在ははっきりと「感じられ」たのだ。 「あ〜る。ダウンウェイト(伏せて待て)!」 凛とした声で彼女が命令する。 体が無意識に反応した。 友達とは言いながら、おいらと彼女との間には当時と違った関係が存在する。 どちらがリーダーかという主従関係である。 実際のパワーの問題とは違う。 当然彼女が主人でおいらがそれに従う。
幼女は碑の近くでなにか一心に土に落書きしているようだ。 彼女はそっと後ろから幼女が落書きしている文字をのぞくとビクッと体を緊張させた。 おいらが思わず飛びかかろうとする。 すかさず 「ウェイト(待て)!」 の命令が飛ぶ。 「なにを書いているの?自分の名前?あら、私と同じ名前なのね。ね、いっしょに遊ぼうか?おねえちゃんと一緒に。なにして遊ぶ?」 それから二人は(と表現していいのか・・)無邪気に地面に絵を描いて遊びだした。
日が沈み周りが色合いを失う一瞬の間に幼女の姿はかき消すように見えなくなった。
彼女は呆然と辺りを見回しおいらと目が合った。 その目には涙が浮かびほとんど泣いているように見える。 「オーケー(よし)。あ〜る!」 倒れ込むようにおいらに抱きつくと彼女はしばらく動かなかった。 おいらは優しく彼女の頬をなめまわす。 やっと人心地ついたのか、顔を上げた彼女は 「やだぁひどい顔。こら、あ〜る。でも、ありがとね。一緒にいてくれてとっても心強かったよ。あの子どうしちゃったのかしら?とっても寂しそうだった。私と同じ名前地面に書いてたけど・・。あの碑の後ろに彫ってある名前も同姓同名だったし。つい漢字で教えてあげちゃったんだけど・・・。」 ふと気付いたように、 「あ、もうこんな時間。早く買い物済まさなくちゃ!」 おいらと彼女はこそこそと鉄門をくぐり、公園を駆け抜け、駅前に続く道を商店街の方に向かい、花屋を2軒梯子して(最初の花屋に赤い花がなかったそうな)雑貨屋でアロマテラピー用の蝋燭を仕入れておいらの家に向かった。 「今日はありがとう。あ〜る。おまえがいてくれて助かったわ。」 彼女が小さな声でつぶやく。 「私、アルフォンスが死んじゃってからたまにあんな事があるのよねぇ。今まで怖いと感じた事なんて1度もなかったけど。みんな優しいんだけど、でも、なんか切ないねぇ。」 見上げると涙がにじんだ目でおいらをみつめる彼女がいた。 「さ、明日からあの学校に通うのか。なんか最初から波瀾万丈だね。転校生ってさ。みんなから見ると全然違う生き物みたいに見られちゃうからね。動物園のパンダ状態。もう慣れちゃったけど・・」 一転して元気そうにしゃべる彼女の匂いの中には、言葉と裏腹に殻に閉じこもった自分をどう解き放そうかという、不安と期待がごっちゃになった感情がはっきりと発せられていた。 |
この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
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