〜2.呼び声は遥かに〜

「えっ?!フジノ元大統領が・・・!?」

電話を取った沙世子の戸惑った声が闇間に響く。

「教授。夕方心配されていたこと。そうです。誰かに連れ戻されたということは?そうですか・・・。それで私達になにをしろと?捜索?はい、はい。判りました。お待ちしています。」

「どしたの?沙世子。」

はれぼったい目をした玲。電話を聞きつけて七瀬さんも顔を見せる。聖さんは今日から青年団の旅行で留守だ。

「教授がこちらに向かってるわ。あと20分位で着くそうよ。装備を用意して待っててくれって。なんか状況がややこしいみたい。」

「出動?沙世子。」

七瀬さん。心配そうに訊ねる。

「うん。教授も一緒。遅くなるか、今夜は帰らないから・・・。玲は今夜はここにいて。」

「私もついてくよ!」

「ワガママ言わないでよ。玲。ataruも龍も長旅で疲れているし、どんなに危険か判らないのよ。」

玲、ぷいっと押し黙って部屋に戻る。沙世子も困った顔で後を追う。

20分後。パトカーのサイレンの音がして教授がまぁと共に到着した。中年の男も一緒だ。教授、開口一番

「フジノ元大統領が宿泊先から黙っていなくなってしまったんだ。」

「連れ戻されたんじゃないですか?今朝の男達に。」

玲、またしゃしゃり出てくる。

「それが・・わからないんです・・・。あ、申し遅れました。私、警備責任者で鈴木と申します。」

警察関係者特有の匂いがする男は戸惑った声で説明に加わる。

「フジノ元大統領は郷里のK町に到着後、散歩に出たいと警備担当者に申し出たんです。担当者二名が同行し、宿舎近くの林の中に入ったところで急に姿が消えてしまったんです。」

「捜索状況は?」

沙世子が状況説明を求める。おいら達も耳をそばだてる。

「付近一帯の林や山林を警備担当者や宿舎のスタッフで捜しましたが・・・。発見できませんでした。」

「それだけですか?」

と乾いた沙世子の声。

「は?」

「おそらく外務省あたりから県警本部に警察庁経由で捜索縮小あるいは中止の要請でもあったんではありませんか?」

「いや、私達は・・別に。」

「いい加減に本当のこと言ったらどうなんです!今朝の事件で、私達はこの犬達がいなかったら死んでたかもしれないんですよ!私はともかく、玲、友達まで危険な目に会わせてしまって。」

「沙世子、それは・・・」

「あなたは黙ってて!玲。」

「はい・・・」

「とにかく、本当のことを教えていただくまでは、例えKSARの指示であろうと犬達を出動させるわけにはいきません。犬達を捜索以外の危険にさらしたくないんです!」

「そんなの・・・おかしいよ。沙世子。」

みんなが沙世子の突然の剣幕に黙り込む中、玲がポツリとつぶやく。

「だって、今こうしている間にもあのおじいちゃん。いや元大統領か。助けて欲しいって思っているかもしれない。おじいちゃんの家族ってまだどこかにいるんでしょ?その人達、どう思っているんだろ?見つけて欲しいって望んでいるんじゃないのかなぁ?今、捜索で動けるのが私達ならば、捜してあげたい・・・私。だから・・・」

「玲・・・。」

「私達がここに来たのはその為なんだ。」

「教授・・・。」

「県警からの依頼は『フジノ元大統領をできるだけ穏便に捜し出して欲しい』というものだった。僕は断りたかったよ。でもね、もしも依頼を断ってフジノさんが本当に事故で動けなかったりした時、僕は自分自身を許せるだろうか?あの時捜索を断ったことで見殺しにしてしまったのではないかと後悔しないだろうか?と思い直したんだ。沙世子君。気は進まないだろうが、どうか協力してもらえないだろうか?今、フジノさんの匂いを知っていて捜し出せる犬達はこの三頭しかいないんだ。」

「県警の警察犬を動かすわけにはいかないんです。警察内部にも色々事情がありまして・・・。本当はこんなことお話できた義理でないのは重々承知していますが、しかし、私もフジノ元大統領を捜してあげたいんです。」

鈴木さんの声。実直そうな声だ。嘘を言っている様子ではない。おいら達もそろそろじれてきた。それぞれ伸びをして、身じろぎをし、ゆっくりと耳と鼻をヒートアップさせていく。

さあ、行こうぜ。沙世子。

「玲・・・。」

「なあに?沙世子。」

「玲はここに残って・・・。」

「だから、それは・・・!」

玲が叫ぶ機先を制して教授。

「さっき、研究室に届いたよ。」

一枚の紙をバックから取り出した。

「千葉SARから送ってきた潮田玲君のハンドラー登録書だ。登録犬はロン・ドラゴン・三世号。通称:龍。」

「教授!それじゃあ・・・?!」

「この際ハンドラーは一人でも多い方がいいでしょ?」

玲。ニコッと笑いウィンク。

「私も基本的なハンドラー訓練受けているんでataruを受け持つわ。多少スペイン語も出来るんで、万が一P国の人達に会っても『こんばんは』くらいは言えるでしょ?」

不敵な微笑みがまぁの口元にえくぼと共に浮かぶ。

「あなた一人に危険を背負わすわけにいかないでしょ?」

「もぉ・・・みんな・・・。」

「さて、時間もない。すぐ出ようか?」

「あ、待って待って!はい!沙世子。おにぎり作っといたから・・」

「ありがとう!七瀬さん!」

「なんで教授が御礼言うの?!」

皆から肘鉄食らっても教授気にせずわめく。

「さて、出動、出動!」

蒸し暑い、長い夜が始まった。

先導するパトカーを追い越さんばかりに伊那教授の運転するフォレスターS/tbは、キセノン(HID)ヘッドライトで闇を切り裂きながら疾走する。

一時間ほどでK町に到着。行方不明になった林の前では発電機の騒音とフラットライトの眩しい光の中で県警の捜査員とホテルの従業員が数名待機していた。そしてスーツ姿の若い男が一人。

その男を見たとたんに教授の表情が曇る。

「伊那教授。お待ちいたしておりました。」

「桜井・・。貴様こんなところで何をしてる・・。」

普段は温厚な教授の声に嫌悪感がジワっとにじみ出た。

「だれ?あんた。」

警備責任者の鈴木さん。用心深く職務質問する。

「私、外務省の桜井と申します。」

名刺を差し出す男。

きつい柑橘系コロンの匂いがおいら達の鼻を刺激する。

ブランド物のスーツを着こなし、言葉使いも丁寧だがその視線には優しさのかけらもない。SMAPの稲垣吾郎似の顔もどこか冷酷で邪悪なものを感じさせる。

「外務省のお役人がなんでこんなところに?」

と鈴木さん。警戒を解かない。

「いやぁ、本省からフジノ元大統領のご様子伺いに参上したところ、行方が判らないんで捜すの手伝えなんて指示が出ちゃいまして・・・。」

しれっと桜井、答えながら、

「彼女達が教授ご自慢のKSARのメンバーですか?どなたも綺麗な方ばかりだ。」

爬虫類さながらの眼つきで沙世子達三人をなめまわしやがった。こいつ・・・気に食わねえ・・・!。龍さんとataruも同じ気持ちらしく、おいら達は揃って唸りのハーモニーを奏でだした。

「みんな、ちょっと・・・。鈴木さん。あのヴァン、打ち合わせに借りますよ。」

「あ、私も行きます・・・。」

とついて来ようとする桜井を、

「あんたはこっち来て!身元確認するまで立ち入らないで。」

と鈴木さん、無理やりパトカーに連れて行く。

「あの男には気をつけろ。肩書きは外務省だが、内閣安全保障室という有事の際は危機管理を担当する部署にいる。僕の天敵で血も涙もない奴だ。」

「気をつけろって言われても・・・。」

沙世子と玲とまぁは異口同音に戸惑いを口にする。

「よし、こうしよう。僕はヤツをなんとしても君達と引き離しておく。シフトは、始めは僕と玲君とペアを組むつもりだったが、まぁと沙世子君がペアで前方捜索。玲君はその後をついて行ってくれ。龍は放さずにリード(引き綱)付きで。この気温と湿度だ。犬たちの疲労が心配なので、20分を目安に交代でバックアップに回る。犬も人間も給水には十分気をつけて。それと、まぁ。例の奴を重いが持って行ってくれ。」

「ラジャ!」

まぁは肩から大型懐中電灯のようなものを下げて先に車を降りる。沙世子と玲もすぐに一緒に出てきて準備は整った。おいら達は外で既にスタンバイ中。

沙世子は教授から預かったビニール袋からハンカチを取り出すと、匂いをおいら達に覚え込ませると集中して風を読む。林の中からわずかに空気が流れてくる。その先にあるのは潮の香。海が近いのだろう。風向きは良好だ。

「あ〜る。ataru、龍。いい?さ〜が〜せ!」

蛍のような淡い光が彼女の指先から発せられ、おいら達を捜索の旅へと誘っていった。

他の機会だったら御免こうむるような蒸し暑い夜の林の中。

蚊や羽虫の類が鼻や口の中に飛び込んでくる。おいら達は空中嗅ぎ(エアー・センティング)と地面嗅ぎ(トラッキング)を交互に繰り返し、かすかに残った匂いの残像を追って行く。沙世子達ハンドラーは顔にタオルを巻いて蚊の襲撃を避けながら、LED型マグライトの光の輪の中においら達を捕らえ続ける。

匂いは林の中をいったん横切って、再び別の林の中に入った後、海へ出る崖になったところでふっつりと途切れていた。

「どうしたの?あ〜る」

沙世子が声をかける。

「匂い、見失ったんじゃない?この暑さじゃしょうがないよ。」

まぁがataruの首筋に手をやり、うんざりしたようにつぶやく。おいらは崖ぎりぎりまで近寄りながら本当にそうなのか確かめてみた。

かすかに匂いが移動しているのがわかる。崖を下りる獣道のような草を踏み分けた後があり匂いはそこから漂ってくる。慎重においら達三頭と沙世子、まぁ、玲が続く。崖を下り切るとそこは小さな入り江になっている。丁度干潮の時間らしく、入り江の端にある小島との間に一本の細い道が伸びていた。おいらはフジノ元大統領の匂いがその島から風に乗って運ばれてくるのをハッキリと嗅ぎ取った。

沙世子もなにか感じたように沖の方に広がる闇を見ている。

「あそこね。あの島からやって来るのね。あ〜る。」

「ヴァフ!」

確信持った声で返事をすると、沙世子は海上に伸びる道に歩を進める。

小島の中腹には大きな祠があり古い祭壇が飾ってあった。その裏から捜している匂いが流れてきている。龍がのそりと祭壇の裏に鼻を突っ込み、ぐっと首を動かすと、きしんだ音をたてて祭壇全体が動き、洞窟が真っ暗な口をあけて現れた。

おいら達が洞窟に入ろうとした時、超小型ウォーキートーキーで教授と連絡を取っていたまぁが、ふいにとん狂な声を上げた。

「え、桜井も消えた?」

「はぁ、はい、了解、気をつけます。」

「あの外務省役人。どこ行ったんだろう?」

「場所はちゃんと伝えてくれた?まぁ。」

「うん、ばっちり。帽子に仕込んだGPS発信機もあるしね。」

「その電波を追ってここまで追いかけてきたんだよ。」

振り向いたおいら達のすぐ後ろに、桜井が無表情に立っている。これだけ近くに音も立てずに近寄れたなんて!

くそ!おいらとしたことが、匂いを追うことに熱中して警戒してなかった!

龍が唸り声を立てて、近寄ろうとする。が・・

「ギャン!」

悲鳴といっしょに後ろにすっ飛んだ。

「龍!」

玲の叫び声と倒れる音。

「田舎だねぇ。ここの警察ときたら身体検査ひとつやらない。おかげで仕事がはかどっていいけど。」

冷たい声で話す桜井の影。その左手には先端で紫色の火花を放つ警棒型のスタンガンが、右手にはSIGザウエルP230セミオートマチック拳銃が握られていた。

「あなた。何でここにいるの?」

少し声を震わせてまぁが問い掛ける。

「難しい質問だなぁ・・・」

ヒュッと音がした。回り込もうと身体を動かしたataruの鼻先をスタンガンがかすめる。

「リードをつけて犬を手近に引き寄せてくれないかなぁ?この女の子の様にはなりたくないでしょう?」

白目を剥いている龍さんと気を失った玲を目の端に留めながら、おいらと沙世子、ataruとまぁは渋々傍に寄り添う。

「バチッ!」

玲に近寄ろうとする沙世子の胸の前で紫色の火花が弾け飛んだ。

「ほらぁ、このスタンガンちょっと手を加えてあるから間違った使い方したら死んじゃうよぉ。」

玲の両手を慣れた手つきで後ろ手に縛り、龍さんを蹴飛ばしておいら達の方に動かすと桜井は

「あ、その犬心臓麻痺起こしてるから、もうすぐ死ぬよ。」

と無慈悲に宣告した。

慌てて沙世子とまぁが心臓マッサージと人工呼吸をする。

「なんでこんな事するの!」

沙世子が龍の胸に手を当てマッサージをしながら突き刺すように叫ぶが、桜井の表情は変わらない。

素早くスタンガンに取り付けられたフラッシュライトを洞窟の中に向けると注意深く入っていく。

どこからともなく、影のように数人の男達が現れる。

黒尽くめの服装と俊敏な身のこなし。何人かの匂いには憶えがある。今朝の連中だ!

唸りを上げるおいらの耳元で沙世子がささやく。

「今朝の男達なのね。あ〜る。でも今は駄目。我慢して。」

二人は龍にデイパックの中から携帯用酸素缶を取り出し、酸素吸入を試みる。幸い盛大な咳とクシャミと共に龍は息を吹き返した。

「ようこそ、現世へ」

ataruがちょっと嬉しそうにつぶやく。

「じゃあしい!もぉわい怒ったで!」

「駄目!龍。動かないで。玲が捕まっているの。ここはおとなしくして」

沙世子の説得でなんとかリードを受け入れる龍。

フジノ元大統領が男達と桜井に両脇を抱えられて洞穴から現れた。

沙世子は立ち上がって地面で気を失っている玲に近寄ろうとする。

「!!」

黒尽くめの一人がいきなり後ろから沙世子を羽交い絞めにすると、桜井がナイフで一気にカバーオールの前を切り裂いた。中に着ているTシャツから下着まで一気に断ち切る。

「追ってこられると困るからね。本当は死んでもらった方がいいんだけど、大統領のたってのお願いだから許してあげるよ。」

まぁにも同様な狼藉を働く男達。桜井の顔に徐々に下卑た笑みが貼りつき始めた。

「玲を返して!」

「返してあげるよ。東シナ海あたりでね。」

「なんですって?!」

「鮫の餌になる前に早く探し出したまえ。ご自慢のバカ犬どもの鼻でね。」

「許さない・・・。」

「えっ?許さない?かわいいねぇ彼女。四つん這いになってそいつらと一緒に遊んでな。」

「あなたを・・・許さない!」

裂かれたカバーオールの前を隠そうともせずに沙世子はまっすぐに桜井を見つめる。その視線は桜井を射すくめ、周りの闇はその闘気をゆらゆらと陽炎のように映し出し始めた。気圧されたように後ずさる桜井。

男達は撤収にはいり、玲はリーダーらしい男に担がれるとしんがりで連れて行かれようとしていた。

「玲!」

沙世子の叫びが辺りに響く。

「桜井は任せた・・・」

ataruの妙に静かな声が耳に入る。

「俺はまぁにナイフ向けた三番目のヤツ・・・」

うわ、こいつマジで怒ってる?

「玲ちゃんはわてがどうにかするわ・・・」

「年寄りの冷や水?」

「やかまし。なかなかやり手とみたが大丈夫かいな?」

「おいら沙世子と同じ気持ちなんだ・・・。」

そう、おいらは今はらわたが煮えくり返っている。桜井に対して。こんな理不尽許す全てに対して・・・。

「玲!」

もう一度沙世子が叫ぶ。

振り向いた桜井の腕には銃が握られていた。

おいらは沙世子が止めるのも聞かずダッシュする。しかしリードを付けたままなんで桜井の方が一瞬早かった。狙いをつけて引き金を絞ろうと力を込める。くそ!間に合わない!

「ダン!」

一瞬なにが起こったのか解らなかった。

おいらが桜井の腕に咬みついてる。

いや・・おいらはここにいるからあそこのおいらは・・・あれ?

ユキカゼ!

銃を取り落とした桜井はユキカゼにスタンガンを押し付けようとした。間一髪でかわすユキカゼ。

「犬を退かせて!」

まぁの叫び。

「伏せ!ユキカゼ!ダウン!あ〜る」

沙世子が叫ぶ。

命令においら達は頭より先に体が反応する。さっと伏せると赤い光が二筋伸びて、桜井の胸に染みのように光点となって現れた。

「パスッ!」

間の抜けた音がして桜井がビクビクッと体全体を震わせるとあっけなく膝を折り、崩れ落ちた。

その間に状況はめまぐるしく変化していた。入り乱れる足音。ライトが消され闇があたりを包む。

龍とおいらは玲を拉致した賊のリーダーらしき男の方へ。ユキカゼはフジノ元大統領を追う。ataruは?

「ギャアアァ!!」

もう始めてやがる。相手は多分睾丸でも喰い千切られたんだろう。

玲の匂いと音ですぐに男の居場所は判ったが、彼女を傷つけちゃいけない。おいら達は男のまわりで吠えるだけ。

「パシャ!」

突然のフラッシュ。

眩しい光が男の視力を一瞬だけだが奪い取る。

影のように誰かが近寄ると男に跳びかかった。

「ゴツッ!ドサッ。」

地面に何かが放り出される音。すぐに

「いったーい!」

とうめくような声。玲!やっと気づいてくれた!

「馬鹿!声立てずにじっとしていろ。」

影の声。

玲と一緒に地面に倒れたままの影に向かい、おいらは飛び掛ろうとして、直前で思い留まる。他の連中のような殺気が感じられない。そいつから流れる匂い。心配と不安と恐怖。そして何かを守ろうとする気持ちがごちゃまぜになっておいらの攻撃本能を押し留めたからだ。

沙世子が慌ててLED型マグライトを持って飛んできて倒れた玲のそばにうずくまる。

「玲!玲!大丈夫?怪我はない?」

そして、玲に覆いかぶさるように体を投げ出していた若い男を見て驚きの声を上げる。

「せ、関根君!?」

「しゅ、秋!?」

まだ体がしびれているらしく、ヨタヨタという感じで上半身を起こした玲も戸惑ったような声でつぶやいた。

「警察だ!抵抗をやめろ!」

拡声器から鈴木さんの声が耳をふさぐほどの音量で響き渡った。

まぁがスペイン語で同じように叫ぶ。

強力ライトの光が交差する。

遠くからヘリコプターの音が聞こえてくるとすぐに爆音に変わり、空からサーチライトの光が降り注いだ。と言っても林の中なのであたり全体がぼっと明るくなるだけだったが、なにより味方が増えるのは心強い。

男達はわらわらと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。教授と鈴木さんが息を切らせ駆けつける。

「教授!もぉ!来るのが遅い!!」

まぁが頬を膨らませ不満そうに叫んだ。

「すまん!ヘリの出動をねじ込んでた!」

「沙世子!」

「七瀬叔母さん!」

「あなたが出てって三十分ほどしたら彼がやって来て玲ちゃんに会わせろって。胸騒ぎがしたんでユキカゼと一緒に追いかけてきたの。途中で教授からあなた達が危ないって携帯に電話があったから近くの崖の上の道路から彼とユキカゼを下ろしたのよ。」

「島に来てみたら、のびたお前を抱えてるやつがいたんで親父に習った琉球古武道の要領で相手に近づいたんだ。」

「でも、なんで秋がこんなとこに・・・」

「返事は後!誰かを追ってるんじゃなかったっけ?玲、津村。」

おいらは振り向くと二人を連れて仲間の応援の為に闇の中に駆け出した

玲を背負って逃げようとした男に龍が背中からドウッと襲いかかっている。牙が引っかかった肩を強力な顎が万力のように締め付ける。

「ゴキッ、ブツン。」肩の関節が外れ、腱の切れる音。

後は龍に任せて、フジノ元大統領の匂いを追った。

ユキカゼが吠えて場所を知らせてくれる。

人質の首にナイフを当て、黒装束の男がユキカゼをどかせようと必死になっている。

ataruが背後から忍び寄り、首を一閃すると、男の太ももあたりがぱっくり割れて血が噴き出した。

ユキカゼがその隙を見逃さず、ガッチリ男の手首に牙を食い込ませ、武器を捨てさせる。

おいらは他の男達が逃げた跡を追いかけた。

「ウィーン!」

電気モーターの音を響かせてゴムボートが波間に消えてゆく。

はるか沖合いには黒い船影が波間に揺れている。

おいらの吠えるのを聞きつけて沙世子らが小島の裏側の砂洲に集まってきた。

「くっそー!」

玲が悔しそうに叫ぶ。ヘリが離れるゴムボートに気付き、サーチライトをそちらに向けたがボートは岸からぐんぐん遠ざかっていく。

「This is JapanCoastGuard! StopYourShip・・・」

どこからか拡声器の声が聞こえてきた。遠くの半島の波間からサーチライトの光がキラキラと星のように現れる。

「海上保安庁の巡視艇『ひごかぜ』だ!なんでここに?」

教授の問いに鈴木さん。

「実は艇長と釣り友達で今日はこのあたりで夜釣りを楽しむということでしたんで、声を掛けておいたんです。教授こそなんであんなに早く防災消防航空隊の『ひばり』が呼べるんですか?」

「私も機長とは飲み友達でね。ちょっと夜間ミッションの訓練飛行計画を立てておいてもらったんだ。」

「なるほど。お互い苦労しますな。」

ニヤっと笑うと鈴木さん。振り向くと

「よし!一人残らず県警の留置所に叩き込むぞ!」

と部下の叱咤激励に走り回りだした。

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 この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
著作権はこれら作品の作者にあります。無断転載・複製・再配布などは行わないでください。

 

 

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