〜4.おいら達の知らない二、三のこと〜

 

その一:空母「キティーホーク」CICルーム

 

「だから・・もうそんな問題じゃないでしょう?総理!あなたも『あれ』を見たでしょう?今回の地震の『グラウンド・ゼロ』は岬市なんだ!我々に出来る事はなんでもやるべきです!あとはあなたの承認だけなんだ!その間に何人の命を無駄に犠牲にするつもりですか!判りました。了解です。承認ですね!」

たたきつけるように受話器を置く。

作戦時の空母CICルームの静かな中に伊那龍三の怒鳴り声がこだまする。

コーヒーカップを持ったレガシ大佐が取りなすように隣に歩を運ぶ。

「すまん・・」

「お互い宮仕えだからな・・しかし、CICで大声出すな。士官の志気に影響する。私も『あれ』を見てから何も出来ない自分に対して腹が立って仕方ないがね。」

「判った・・」

「艦長!」

士官の一人がレガシ大佐を呼ぶ。

「AWACS(早期警戒管制機)からの緊急電です。アンノウン(所属不明機)五機が北海道方面に接近中!」

「なに?!」

さっとCIC内に緊張が走る。

現在のキティーホークは艦載機を陸上基地に移して丸裸の状態だ。

一発でもミサイルが命中したら火だるまになる。

「速度は?」

「120ノット(約216Km/h)。そろそろ日本領空に入ります。千歳のF−15Jがスクランブル(緊急発進)。もうすぐコンタクトします。」

「AWACSのTACO(戦術航空士)を呼び出せ。」

伊那の声にかすかに熱が入る。

「震災対策長官の伊那です。所属不明機と無線で話せますか?」

「今、国際緊急周波数で応答あり。中継出来ます。」

「こちらは震災対策長官伊那。貴機の所属・飛行目的・目的地を知らせ。」

英語とロシア語で呼びかけると間髪を入れずに反応があった。

「イーナ?!しばらくぶりじゃないか!こちらロシア陸軍のジプシーノフ・ジゲン大佐だ。いつかの約束守りに来てやったぞ!」

「相変わらず英語が下手だな!ジゲン。合衆国海軍レガシだ!なにトロトロしてやがる。さっさとキティに来い!」

レガシ大佐が横で破顔する。

「了解。こちらはロシア共和国緊急災害派遣部隊司令官ジプシーノフ・ジゲン大佐。日本政府に対し、貴国領空への進入と災害援助物資の積み込み、及び岬市への飛行を許可されたし。」

「なぜ岬市が目的地なんだ?」

「『あれ』を見たからに決まっているじゃないか!物資はないが、とりあえずMi−26ヘイロー輸送ヘリコプター五機と工兵部隊を五チーム連れてきた。思う存分使ってくれ!」

「判った。千歳で足止め食ってる北海道の災害救助犬チームと救援物資を拾ってキティに向かってくれ。今、その件で総理の承認を取り付けた。貴国のご協力に感謝する。」

「えらく早いじゃないか!さては怒鳴りつけて無理矢理だな?」

「うるさい。てめえも同じ手使っただろう?オンタイムで到着しろよ!こっちは手一杯なんだ。」

「Roger!」

「世界最大のヘリ五機か・・・野郎共!ぬかるんじゃねえぞ!」

「Aye aye Sir(アイ・アイ・サー)!」

士官達の力強い返事に呼応するかのように状況掲示板の五個のアンノウン(所属不明機)のマークは味方を示すグリーンに変わった。

 

その二:熊本空港

 

合併後、その姿が次々に統一デザインに変わる中、一機だけ残っていた黒沢明デザインのレインボーカラーJAS MD90−30が夕闇迫る熊本空港をプッシュバックされて滑走路に向かう。

「本当にいいんですか?彼女を現場に出して。」

不安そうな災害対策課長の声。

「彼女のことだから帰ってきたら、また大車輪で働いてくれますよ。そんなことより、残った私達がしっかりしないと・・。私もあと三十年若かったら飛び出してますけどね。」

「しかし・・チャーター便まで出すとなると県費だけで賄うのが・・。それに・・なんで岬市からは自衛隊への派遣要請が未だになされていないんですか?」

「まだ伏せてありますが、市庁舎の地下が今回の地震の震源地だったんですよ。多分庁舎は跡形もないでしょう・・しかもその日は市議会の初日でしたから・・」

振り向いた女性県知事の瞳が空港の明かりを受け、キラリと輝く。

そこには、最近見受けられなくなった彼女特有の強さと一途さが込められていた。

そう、前知事の不審死の後を引き継ぎ、この地方の政権を切り盛りすると決まった時の・・。

あの強さが戻ってきていた。

真っ直ぐに対策課長の目を見つめると

「『あれ』を見せられて黙って見過ごすことなど私には出来ません。自衛隊が運んでくれないと言うことなら自分たちで運びましょう。県職員全てに非常呼集を。県内の企業全てに義援金と協力の依頼を。三日でカタをつけましょう。」

「判りました!」

足早に空港を去る県知事の足取りが、いつになくしっかりしていることに彼は気づいていた。

そして、その勢いに呼応するように、自分も忘れかけていた「何か」が胸の奥に再び宿るのを感じていた。

JAS MD90−30特別チャーター便は満載の救援物資と災害救助犬達を抱き、先発した陸上自衛隊のCH−47Jチヌークヘリコプタ群を追い越すべく、阿蘇の山々の間から千葉県の海上自衛隊下総航空基地を目指し、離陸を開始した。

 

その三:東京〜首相官邸危機管理センター

 

首相官邸屋上。

着陸した陸自のOH−6J連絡観測ヘリコプターのドアを勢いよく跳ね開けると、瑞季二尉は地下一階にある危機管理センターまでダッシュした。

扉を開けると汗臭い空気が行き場を求め、雪崩を打って彼女を襲う。

「遅れました!」

「何をやっていたんだ!総理がお待ちだぞ。」

防衛庁長官の苦々しい声を聞き流し、ノートPCを立ち上げる。

無線LANでネットワークにログインし、壁面プロジェクタ用コネクタを繋ぐ。

「これより岬市周辺の被害状況報告をいたします。」

淡々とした瑞季二尉の声がシチェーションルームに響く。

「・・・以上のように岬市の行政中枢は地震発生直後に壊滅。同じ地区にあった警察署、消防署等につきましても同様の状況であります。今後は隣接する市町と実質的な合併措置を行い、救助・復旧活動を行います。」

「現在岬市沖に停泊中の米空母キティホークを臨時のヘリコプターベースとして活用し、現在北海道より南下中のロシア陸軍Mi−26ヘイロー輸送ヘリコプター部隊、自衛隊の木更津、館山、下総等各基地のヘリ部隊より緊急対応部隊を編成し、対応します。」

「市民の被害状況はどうなっているんだ?」

「現在の状況は、市の住宅の八割が全壊または半壊。西浜中学では校舎の倒壊により数十人規模での死者が出ていることがボランティア組織KSARから報告されています。他の公的機関、警察・消防・自衛隊はまだ岬市に到着できていません。情報は錯綜しています。」

「なぜ到着できんのだ?あれだけの情報をそのKSARとか言うボランティア団体から受け取っておきながら・・」

再び、防衛庁長官の非難めいた声がテーブル越しに瑞季二尉をとらえた。

すっと目を細めながら、意識的にその質問を無視し

「木更津の第1ヘリコプター団と習志野の第一空挺団。北海道より南下中のHSAR(北海道サーチアンドレスキュー)。そして、海上自衛隊下総航空基地に向かっている熊本県がチャーターしたJAS特別便。その他にも続々と岬市に対し支援の申し出が出ています。」

「海上自衛隊の輸送艦『おおすみ』も呉港を先程出港しました。現在横須賀に停泊中の『しもきた』を至急、岬港沖に移動して市民のための臨時の避難所としたいのですが・・」

「なにを馬鹿なことを!首都圏に展開した部隊の移動は住民の不安を招くから絶対やってはならん!それにさっき言った習志野の第一空挺団。あれは臨戦部隊だろう。それも駄目だ。君は連絡係として派遣されたんだろう?困るじゃないか。任務を逸脱してもらっては。伊那震災対策長官はどうしたんだ?こんな大事な会議に・・」

「お言葉ですが・・・」

防衛庁長官の小言を冷たい一瞥で屠り、瑞季二尉はキッと総理をにらみつけた。

「先程ネットワークで報告したように東京、神奈川、埼玉、千葉の一部については既に救出活動も軌道に乗っています。ライフラインも復旧しつつある地域が出てきました。今回の震災では千葉県中央部に走る断層のせいで首都圏は助かったようなものです。総理。断層の先の、最も被害の出ている岬市を最優先救出地域に指定させて下さい!今回の地震の『グラウンド・ゼロ』は岬市なんです!」

しばしの沈黙。

閉じていた総理の目がやっと開く。

「防衛庁長官。全ての自衛隊の艦船、航空機、移動車両を動かし出すには、どの位時間が掛かる?」

「それは・・」

「最も遅い部隊でも五時間後には出動準備が整います。」

口ごもる防衛庁長官に被さる、間髪を入れない瑞季二尉の返答。

「総務大臣。自治体からの救援申し込みの状況は?」

「えーっと。」

「現在43道府県より救援申し込みがあり、熊本県を先頭に物資の運送が既に始まっています。順次各被災地に割り振り中ですが、航空機で最寄りの空港に到着した物資の集積振り分け場所を至急確保する必要があります。ここにリストがあります。」

「伊那君か?」

「日本中の全ネットワーク、マンパワーと組織をこの為に貸して下さい!助けたいんです!人の命を!」

「わかった・・」

ポツリと総理がつぶやく。

「伊那君に、私も『あれ』を見て、確かにそう思ったと伝えてくれ。」

来た時と同じように瑞季二尉は一目散に階段を駆け上る。

ヘリの無線をひっつかむと開口一番、彼女は叫んだ。

「長官、総理のOK出ました!私も現場に出ます。もうじっとしてられませんから!」

OH−6Jは闇の中、岬市を目指し飛び立った。

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 この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
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