「MISSION−7」
〜1.Mission Impossible〜 その年の秋は極めて異常だった。 十月になっても暑い日が続き、雨は降らず、隣の福岡県では何年振りかで給水制限が発令された。稲は不思議なことに穂をつける前に枯れ始め、トンボは異常発生し、空一面に赤い色の絨毯が敷かれた。 十一月初旬。あまりの寒さに目が覚め、沙世子の部屋に逃げ込むと彼女が呆れたように窓から外を見ていた。 「あ〜る。この時期に雪って見たことある?」 驚くべきことに外は一面の銀世界だったのだ! 農作物への被害は甚大で政府は食料の輸入制限を一時的に全面撤廃し、タイ米など外国産農作物の輸入量がうなぎ登りに増え始めた。 そんなある日。 おいらは昼寝の最中に夢を見た。 沙世子と玲が中学生時代。「六番目の小夜子」の年の夢。 炎に包まれる西浜中北校舎の中、逃げることが出来ずに立ちつくす二人。 そして、大いなる扉が開いた瞬間、さらなる業火が扉から二人に襲いかかり彼女たちは炎に包まれていたのだ! 「ヴァフ!」 思わず吠えた自身の鳴き声で目が覚めたが、おいらはしばらく寝る気にもならずに呆然として立ちつくしていた。 言いようのない不安。そして一時忘れていた「恐怖」という感情。おいらの全身に震えが走った。
伊那教授から緊急連絡と非常招集が掛かったのは翌日早朝だった。 「政府の地震予知連絡会議が本日午前七時から招集されている。」 沙世子の大学の大講義室。 早朝の大学の慌ただしさが鳴りを潜め、ピーンとした緊張感があたりに漂う。 集まっているのは熊本県内の消防・警察・医療・県関連事務所の防災担当者。及びKSARを始め、県内全ての防災ボランティアグループ代表達。オブザーバとして県内に駐屯する自衛隊担当者まで一緒だ。教授が数年かけて取り組んできた地域防災網を支える人々の輪。壇上で話す伊那龍三教授。おいらは講義室の片隅で沙世子と共に話を聞いていた。 「最悪のシナリオは各自渡した資料の通りだが、その場合は関東地方との通信断絶は避けられない模様だ。各中央官庁と協議する時間も手段もない。通信断絶後は各部門は独自判断にて支援体制の確立、行動を余儀なくされる。最も早く通信機能回復が期待できるのは防衛庁関連及び政府専用回線の筈であるが、これも地震発生規模によって予測が不可能である。熊本県としては、地域防災先進県としていち早く被災地に対して人的支援及び物的支援を関係機関連携の元に執り行うものとする。本日県知事より今後の地震発生被災地支援に対して全権を私の判断にて行う了承を得た。従って全ての関係諸機関は一時的に県庁に特設される特別連絡会議の指揮下に入るものとする。以上」 「どの程度の規模の支援体制になりますか?」 「まだ確定できないが、最悪の場合数百人規模になる模様だ。第一次派遣として消防・警察・医療を中心としたエキスパートチーム、及びこれにKSARより災害救助犬を数頭加えた編成とする。」 講義室に動揺が走る。 「なんで災害救助犬なんだ?」 「重機を先にやってからの災害救助犬だろう?ハイテク捜索機器だって・・」 「本年四月の全国防災担当者会議の決定によって!」 教授の声が有無を言わさず被さる。 「本県の支援体制区分に若干の変更があった。重機等の支援は関東地区他都県にて調達可能であるが、組織化した災害救助犬エキスパートチームについて派遣出来るのは関東以外では富山、北海道、三重及び熊本の四道県しかいない。よって本県の支援区分に従いチームを送るものとする。他部門の派遣等については手元の資料に基づき被災地に応じて各機関に対し、適宜指示するものとする。最後に・・・みなさん!私達の行動でパニックが起こる可能性があることを自覚して何があっても冷静に慌てず騒がず行動して下さい。以上」 その時、大学職員がメモ用紙を手に講義室に飛び込んできた。 「関東地方に地震発生!震源地は房総半島!ま、マグチュードは推定8.1!」 一瞬水を打ったような沈黙の後、各出席者は黙々と退出する。途中からそれは駆け足に替わった。 言葉はいらない。 作戦開始の鈴の音が今静かに鳴りだしたのだ。
「震源地特定はまだか?!」 おいら達KSARと大学関係者は教授の研究室に飛び込んだ。まぁが青い顔でディスプレイに覆い被さっている。 「JESUS(ジーザス)!」 「どした?」 「震源地特定できました!房総半島中央部。岬市北東5km!」 ふらっと沙世子の肩が揺れる。 顔が真っ青だ。 「なんてこった。陸上か、震源は・・・。各地の震度は?現在までの被害状況分析急げ!必要なら大学サーバルームの全機材の利用を許可!今から学長へ連絡する。県庁特別連絡会議室に移動するから状況が判ったら教えてくれ。頼むぞ!まぁ!」 「ラジャー!さぁ、国立熊大、九州東山大のネットワークにリンクするわよ。沙世子、ちょっと手伝って。出動命令下るまでここにいなさい。」 まぁ、声を潜めて、 「そっちの電話。優先回線だからご両親とおばあちゃんにすぐ連絡してみ。七瀬さんには連絡しといた。」 「ありがと。まぁ・・。」 電話に飛びつき、岬市のゆりえさんに掛けるが予想通り不通だった。次に東京の両親に掛けてみるが、こちらも回線制御で繋がらない。 「しようがないね。」 気の毒そうに沙世子を見やるまぁ。受話器を置いたとたんに電話が鳴る。 「はい。あ、七瀬さん!今替わります。」 「私です。七瀬叔母さん?え?父さんと母さん旅行中?!神戸に・・判った。こっちはいつ帰れるか判らないから・・。よろしく言っておいて!うん!ありがとう!助かったわ。おばあちゃんの方からは連絡は?そう・・うん。じゃ、切るね。」 ほっとしたような沙世子の表情。顔に生気が蘇る。 「両親、今神戸にいるって。連絡があったわ。お母さんの思い出旅行に行ってたって。きっとお母さんが呼び寄せてくれたのね。」 「そっか。沙世子の本当のお母さんって・・。」 その時、壁に備え付けている120インチプラズマディスプレイに分割表示中のTV各局の画面がブラックアウトしていた状態から一斉に立ち上がった。 「こちらは政府災害対策本部よりNHK及び全民放局を通じて放送しております。先程午前9時27分。関東地方に強い地震が発生致しました。震源地は房総半島中央部。震源の深さは現在調査中です。現時点で情報が入りました各地の震度をお知らせ致します。東京都、震度6弱。神奈川、震度6。埼玉、震度5強。茨城、震度6。・・・」 淡々と繰り返される地震情報。 「わかっとるちゅーの。えーと被害状況のサイトはっと・・。うわー、こりゃ関東地方全エリアにまたがってるな。これに、九州東山大の宇宙情報センターからの衛星情報を重ねてっと・・。出来た!画面出ます!」 壁のディスプレイに各地の被害状況がマップで表示される。 「うわ・・!」 「Oh!JESUS!」 沙世子とまぁ。言葉を失い呆然と被害状況マップを見つめる。 関東地方一帯が甚大な被害を受けていた。幸い東京都心はそれほど大きな被害は受けていないようだが、震源に近い千葉県西部は赤く染まっている。そして、おいらと沙世子の思い出の地、岬市は・・最も被害が甚大で救助活動を急がなければならない深紅(スカーレット)に彩られていた。 優先回線電話が鳴った。伊那教授からだ。スピーカーに回される緊迫した教授の声。 「沙世子君。あ〜るを連れて至急熊本空港に直行してくれ!『ひばり』で岬市に向かって欲しい。自衛隊の出動が手間取っている。九州内の防災消防航空隊で話をして、とりあえず福岡、熊本、鹿児島の消防ヘリが先遣隊で急行する。その便で岬市に入れ!千葉SARは発足して間がない。とても組織だった捜索は不可能だ。後発隊は自衛隊の輸送機とヘリに分乗させるが君は土地勘がある。先に行って状況を把握してくれ!頼む!」 「了解!装備は地震対策マニュアル通りでいいですか?」 沙世子の凛とした声。 「新兵器はまぁに預けておいた。つらいだろうが、お願いしていいか?いやなら後発隊と一緒に自衛隊と同時出発も可能だぞ・・・。」 「呼ばれてますから・・・。是非行かせて下さい!」 沙世子の背中から強い意志の力が一瞬陽炎のように立ち上った。
熊本空港の駐車場に車を乗り捨て、装備の詰まったダッフルバックを担ぐとおいら達は防災消防航空隊の格納庫に駆け込んだ。 「ジョー!中田さん!」 「よ!レスキュー少女!Welcome!」 明るく答えたのはJOE・蓮井。防災消防航空隊のヘリ『ひばり』のメインパイロットだ。日系3世だが、奥さんが日本人で先日帰化申請したという変わり種。元は合衆国海兵隊のSARヘリパイロットだ。操縦は無茶苦茶荒いが、これまた無茶苦茶上手い。おいら達とは先日も共同ミッションをこなしていて、おいらが手加減なしに遊ぶ(一節には本気で噛みつくとも言うが)現在唯一の相手。 「大丈夫かい?無理に一緒に行かなくても後から自衛隊と向かえば?」 気を遣って言ってくれているのは中田章博。優男風だがこれでも救命士(メディック)ドクターだ。人吉の捜索ミッションで一緒だった。 「大丈夫です!すぐ出発ですよね?急ぎましょう!」 「先月から『ひばり』の二番機の『こじゅけい』がミッション稼働してるからこんなに早く出動出来るんだよ。県内に一機しかいなかったらその間の救急ミッションが麻痺してしまう。」 離陸準備が整った『ひばり』に乗り組みヘルメットをかぶる。おいらにも一応乗っけてはくれる。機内は救助用品で一杯だ。離陸位置まで進み管制塔の指示を待つ。 「どの位で岬市まで着くんでしょうか?」 「そうだなぁ。JOE?」 「6、7時間。ことによると8時間近く掛かるかもな・・・」 「え?!」 「途中燃料を補給しつつ北上して関東に入ったとしてもだ。今入った情報では羽田、成田はクローズド(離発着禁止)だ。羽田なんか液状化現象でドロドロって話だぜ。つまり飛び立っても降りるところは飛んでから探せとのご命令だ。OK?」 「は、はい・・・」 「そこで今、Mr伊那は合衆国海軍にねじ込んでる。あの御仁、度胸あるなお嬢ちゃん。どんなコネを使ったか知らないが、なんと俺達を空母キティホークに止めさせろと言ってるらしい!」 「アメリカの空母に?!」 さすがに中田もそこまで聞いていなかったらしい。驚くと言うより呆れていた。 「しかし、キティホークは横須賀に停泊中・・・あ、洋上待避中だ!今!」 「そう、丁度おあつらえ向きに奴ら訓練中で東京湾上に出ている。そのまま木更津まで突っ切れとさ・・。ヘリステーションさえ出来ちまえばこっちのモンだ。一気に岬市上空までこのすかいらーく(ひばり)を運んでピタリと止めてみせるぜ!」 「機長!飛行計画に不備って管制官が言ってますぜ。」 「んなもん!降りる位置さえ判らないのに出せるかぁ。第一こんな時の飛行計画は国土交通省と総務省の間でマニュアル化してるはずだろうがよ!貸せ!」 「This is Resucue JA15KM!離陸管制は広瀬か?てめーこの間の麻雀のツケ今返すか?Over!」 一瞬全員ポカーンとして機長席のJOEを見つめる。沈黙の後、無線が告げる。 「roger・・Resucue JA15KM.Cleared for takeoff!Goodluck!生きて帰ってこいバカヤロ!」 一気にスロットルが押され、おいら達は座席に押しつけられる。 JA15KMアエロスパシアルAS365N3『ひばり』は一路岬市を目指し、時速280kmで飛び立った。地震発生後1時間が経過していた。
空母キティホークを目指し、飛び続ける「ひばり」を各地の防災ヘリコプター達が追いかける。福岡、鹿児島、広島、兵庫、大阪等その数はみるみる十機以上の大編隊となっていった。上空ではどこから飛び立ったのか対潜哨戒機P−3Cの姿まで見える。レーダー関係が弱い防災ヘリの目となり耳となるためだ。位置情報、被災情報をP−3Cからもらいながら防災ヘリ部隊は途中給油しつつ北上を続けた。 おいらは沙世子の膝に頭を乗せてくたばっていた。こんな長い時間ヘリに乗った経験もないし、騒音もひどい。これからのことを考えれば体力は温存しておくに限る。 「見つけた!11時の方向。」 300mを超える空母の飛行甲板も上空から見れば芥子粒程もない。ヘリ部隊は徐々に高度を下げ、鉄の島に舞い降りていった。 「兄ちゃん!ハイオク満タン!シェルにしてくんな。」 JOEがテキサス訛りで怒鳴る。 飛行甲板上は次々に着陸するヘリコプターで戦場のような騒音と喧噪の渦だ。燃料の刺激臭と嗅ぎなれない数多くの匂い。おいらは一気にナーバスになっていった。 「防災へり部隊の方々は集まってくださーい!」 日本人のスタッフが牧羊犬のように走り回り、ひとまとめにして空母の内部に案内する。 おいらと沙世子はトイレを目指しひた走る。 狭い通路とバルクハッチを越えるとブリーフティングルーム。 皆それぞれ自己紹介と情報交換に忙しい。 「アテンション!」 注意を即され慌てて皆席に着く。 「楽にしてくれ。空母キティホークへようこそ。艦長のレガシ大佐です。本艦は日本政府の要請により、現在第七艦隊の任を解かれ災害救助艦として千葉県木更津沖に停泊しております。本艦の任務はここに留まり海上ヘリポートとして全国各地からやってくることになる災害救助ヘリコプターの海上補給基地として機能することにあります。実も申せば、もう一週間もすれば本艦は退役の為、最後の航海に出発する予定でした。最後の任務が災害救助かと思うと老骨にむち打つ甲斐もあるというものです。皆さんが直面しているこのとてつもない困難に少しでもお役に立ちたいと思います。では日本政府より連絡将校として乗り込まれている瑞樹二尉より最新情報のブリーフティングをお願いします。」 女性尉官の服を着た凛々しい女性が壇上に立つ。 「遠方より災害救助に駆けつけていただいた各県の防災ヘリコプターのパイロット、及びスタッフのみなさん。お疲れ様でした。しかし、これからが大変です。私は内閣安全保障室より皆様とアメリカ軍及び自衛隊との連絡係をさせていただきます海上自衛隊の瑞樹二尉です。現在関東地域の一部の航空機官制は国土交通省から防衛庁に移管しております。東京・神奈川・千葉につきましては陸上交通網が寸断されていて事実上役に立ちません。幸い羽田・成田の民間空港は固定翼機はまだ無理ですが、ヘリについては一時間前に離着陸が可能になっております。習志野・木更津・下総・入間・百里の各自衛隊航空基地は現在自衛隊機以外は着陸できません。厚木・横田の米軍飛行場も同様です。現在これらの航空基地では必死で滑走路の復旧と災害救助の出動準備を行っています。」 「じゃ、自衛隊は現在なんの行動も起こしてないんですか?二尉」 JOEが噛みつく。 「部隊によっては既に救出活動を行っているところもありますが、情報が錯綜して正直把握していないと言うのが実情です。本日15:00。政府は国家非常事態宣言を行いました。18:00より自衛隊全部隊は統合幕僚会議の指揮下に入り組織的な部隊運用が出来るようになる予定です」 「ガッデム!」 JOEが唇を噛む。 「遅い!で、すぐに飛び立たせてくれるんだろうな?岬市に向かわにゃならん。あそこが一番被害がひどいはずだ。」 「いえ、防災ヘリ部隊は全て東京消防庁の指揮下に入り東京都、神奈川、及び千葉県内の消火活動に当たるよう指示が各県知事宛に総務省より先程打電されました。」 「なんですって?!」 沙世子が声を上げる。 「KSARの津村沙世子さんね。残念ですが、岬市は全ての連絡網が寸断されていて被害状況が断片的にしか入ってこないの。偵察ヘリや衛星写真から判断すると、申し訳ないけど他の地域の災害復旧を優先させるしか手はないのよ。」 「岬市を!岬市を見捨てるつもりなんですか!!」 沙世子の悲痛な叫びがブリーフティングルームを満たした。 「見捨てるようなことはしないわ。」 真っ直ぐに沙世子の視線を受け止め、冷静な声で瑞樹二尉は答えた。 「岬市に向かう国道・県道は現在全て通行止めなの。岬港も岸壁が崩れているので船舶が接岸できるか調べているとの報告が入っているわ。外部からは今助けることが出来ない状態に岬市はあるの。だから、私達が組織的な救助活動が出来るようになるまで待って欲しいの。」 「だったら、なおのこと私達が今助けに行かないと!」 沙世子の声のボルテージが一際上がる。 「自惚れないで。」 ぴしゃりと沙世子を黙らす瑞樹二尉の一言。 「私達は第二次世界大戦の真珠湾攻撃で不意打ちを食らったアメリカ軍のようなものなのよ。戦力は小出しにせず、最も効果的に組織化して行動しなければ被害は拡大するばかりよ。あなたの個人的な感情で他のたくさんの人々を助ける機会を失うかもしれないのよ。東京の状況をお話しすると、ほとんどパニック寸前の状態にあるわ。お台場なんかは鉄道・道路共不通。孤島と化しています。液状化で地面はグズグズ。人々は避難場所を探して皇居にまで押しかけている。道路の被害状況が大したことない地域でさえ、被災者を運ぶ救急車が現場に到着出来ないの。逃げる人達を乗せた車が道をふさいで大渋滞を起こしているからよ。陸自では出動に際して銃器の使用を考えている部隊さえあるくらい。下手をすると暴動が起こりそうなの。警視庁・東京消防庁は共同して被災者の救助作業を行っているけど、人口の集中度が圧倒的に違うので、とても手が回らないのが実情よ。他県でも状況は似たようなものね。」 首を回すとブリーフティングルームを一瞥し、瑞樹二尉は熱意のこもった目で集まった防災ヘリのスタッフ達に伝える。 「皆さん。今お話したように状況は極めて切迫しています。政府は東京都を最重要救助地域と考えています。現在全国に救援要請を出していますが、皆さんがその第一陣となります。すぐ出動していただけますか?」 「待ってください!」 沙世子の声。凛として、気迫のこもった声。おいらは思わず伏せていた体を起こして彼女の傍らにピタリと着く。 「瑞樹二尉の仰っていることもわかります。でも、私には最も被害が大きな地域を・・岬市を見捨てることは出来ません!」 「俺もそうだな・・・」 JOE・蓮井が間髪を入れず合いの手を入れる。このおっさんのこういう所が今まで出世できずにいる理由だが、おいらはそこんとこが大好きだ。 「すまんが、瑞樹二尉。『ひばり』は災害救助犬とハンドラーを岬市にホイスト降下させた後に本隊と合流する。」 「いや、『ひばり』にはこのまま岬市に飛んでもらう。他の地域は自衛隊と全国から応援の防災ヘリ部隊が動き出せば大丈夫だ!」 力強いこの声は? 振り向く全員の前に現れたのは、なんと熊本にいるはずの伊那龍三教授ではないか! 「瑞季君。調整役大変だろう?」 「教官!官邸には行かれなかったんですか?」 「あんな烏合の衆の中で指揮なんて執れるかい!大変だったんだぞ!熊本の方で指揮を執るはずだったのが急に表舞台に呼び出されて。おまけに即時原隊復帰命令まで受けちまって・・。」 「Mrイナ。また会えてうれしいぜ!」 「レガシ大佐!貴艦を乗っ取って申し訳ない。しかし、どうしても代用ヘリポートが早急に必要だったもんで。もうすぐ全国からヘリボーンがやってきます。ガスは満タンですか?」 「ご心配なく。給油艦を手配済みです。明日にはランデブーできるでしょう。ここならCH−47Jだろうが、自衛隊最大の海自のMH−53Eだろうが楽に給油してあげますよ。整備も本職の連中を各基地から募って部品と共にこっちに移動中です。」 「ちょ、ちょっとおっさん!」 JOEが口を挟む。 「なんで熊本にいるはずの只の教員が合衆国海軍の大佐と話できるんだよ?そもそも何でここにいるんだよ?」 「そうですよ!説明して下さい。教授。」 沙世子も戸惑った声で問いつめる。 「伊那教授は私の防衛大学時代の教官なのよ。ついでに経歴を説明すると、京大の防災研究所から防大に引き抜かれて戦時ロジスティック研究で第一人者となり、米国に留学。国防総省で働いた経験もあるのよ。レガシ大佐と知り合ったのはその頃。日本に帰ってきたときは防衛庁長官まで留意したのに、退官されて熊本の大学の一教授になってしまった。」 「は・・・」 居合わせた誰もが、教授になってからの伊那龍三しか知らないことにその時気づいたようだ。 「先程、内閣内政審議室より第二関東大震災対策長官として任命されたの。緊急だったから新田原のF−15DJで厚木まで飛んでもらって、救難ヘリのUH−60Jで東京の首相官邸まで飛んで頂くことになっていたんだけど・・・。」 苦笑いしながらも頼もしげに教授は瑞季二尉を見やる。 「この津村君は学生時代の君を思い出すよ。さて、その君のことだから情報収集と選別は完璧にやってくれてるんだろう?大方レガシ大佐に頼んでこの艦のネットワークを最大限使用できる確約くらい取り付けていると思ってね。」 「ったく・・おいしいところだけ持っていくその性格は今も変わらんな。ドラゴン。」 レガシ大佐から背中をこづかれる教授を見ながら沙世子。 「熊本は大丈夫なんですか?教授。」 「ああ、なんとか知事には訳を話して代役を確保した。阿蘇の寝観音様が大魔神になっちまったけどね。」 まぁのことだ。きっと今頃頭から湯気を出して書類の束と格闘し、電話とFAXとメールの嵐を裁いているに違いない。 「現在教官が昔想定された災害対策プランD−4で進行中。自衛隊内のネゴシエーションも完了しています。これからは加速度的に部隊の運用が可能となります。」 「一番大変なところを君ら若いのにやらせちまったなあ。すまない。ただ、岬市の救援はもっと重要度を上げなきゃいけないことなんだ。あそこは震源に最も近い市だから、ほぼ壊滅して救助要請も出せないかもしれないから・・」 「教官がそう仰るなら・・。あ、今は長官ですね。失礼しました。」 「さ、急がないと!JOE、沙世子君と連携して一人でも多くの要救助者をここに、キティホークに運んで欲しいんだ。出来るかい?」 ギラッとJOEの目が鷹のようにきらめくと顔つきが瞬時に変わった。スイッチが切り替わった証拠だ。 「誰に話をしてるんだよ!この俺様に降りれない地表はないんだ。マリーン(米海兵隊)で伊達にパイロットやってたわけじゃないんだからよ。行くぜ!レスキューガール。」 踵を返し、飛び出すJOE。負けじと沙世子が続けば、我先にと他の防災ヘリパイロット達も走り始めた。 駐機していたヘリ達のローターが轟然と回りだし、空母の甲板に空気の噴流をたたきつける。 「ひばり」は岬市に向かって機首を向けると全速力で羽ばたいた。 |
この作品はTV版『六番目の小夜子』から発想を得た二次創作作品です。
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